図表類の一部は掲載を省略しています。

第446回 雑学大学講演要旨 2004年9月9日

 

天気図についてー実際に描いてみようー

「気象コンパス」代表 古川武彦

furukawa@met-compass.ecnet.jp

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1.    天気図とは

―「時刻と高さを固定して、地図上に気象要素(天気、気温、気圧、風向風速など)の分布を表したもの」。高さを地表面にとったものが「地上天気図」。高さを上空にとったものが「高層天気図」。約5000m上空に対応する「500hPa天気図」など。世界最初の天気図は1820年にドイツで作成。日本では1883年に初めて刊行。天気図は表現する領域により、局地・極東・アジア・北半球天気図などがある。

―実際の観測データに基いて描いたのが「実況天気図」。将来のある時刻の天気図が「予想天気図」。通常、全雲量、風向風速、天気、視程、気温、気圧、湿度などが観測点ごとに記入されており、等圧線、高・低気圧の場所および示度、等温線、前線などが表現されている。

―特に、天気図上の気圧分布(等圧線の分布)は、高気圧や低気圧、台風の存在、風の吹き方、気温の高低、天気などの情報と密接に結びついているため、天気予報作業にとって重要な情報。

―実際の天気予報は、「天気図」だけから行なわれるのではなく、次に述べる「数値予報」の結果や「予想天気図」に基いて、予報技術者が作成。

―約100年前の日露戦争では、観測データが現在に比べれば格段に疎らなしかも地上天気図のみから、また気象学の知識も乏しい環境の中、対馬海峡の付近の天気予報として「天気晴朗ナルモ、波高カルヘシ」との予報が行なわれ、見事に適中した話は有名である。敵艦見ゆの電報に接した東郷司令官は、この予報を引用して「・・・、天気晴朗ナレドモ波高シ、・・・」と檄をとばした。

―天気図を見ると、気象の全体がどうなっているかが視覚的にわかり、気象現象の物理像(低気圧の移動速度、発達の程度、天気、風の強さ、気温の高低など)の理解に役立つ。

―天気予報の基礎は「数値予報」と呼ばれる客観的な手法に変わったが、天気図自身は、現在でも予報作業にとってなくてはならない存在である。

― 一般の人々にとっても、テレビでの天気予報の背景や解釈に役立つ。「新聞天気図」や「ラジオ天気図」はその簡便版。世界各国に予報作業やメディアでも天気図が利用されている。

 

 

2.気圧の観測

 気圧は大気の重さ。1cm当たり約1kg。内部が真空の小空洞の圧力変化を電気的に検出する「電気式静電容量気圧計」で観測。もともとは水銀柱の高さから観測。ミリバール(mb)とヘクトパスカル(hPa)は数値が同じ。圧力の基本単位が物理学者のパスカル氏に因んで「パスカル」となったための呼称の変更。1気圧は1013ミリバール=1013ヘクトパスカル。気圧は上空に行くほど低くなっており、気圧と高度の間には一定の関係があり、気圧が分かるとその高度が分かる。この原理は「気圧高度計」として、ジェット機などに搭載されており、実際の航空管制で飛行高度の設定に利用されている。

 

3.天気図の作成

(1)   実況天気図

 天気図の元となる気象観測の対象要素や観測方法は、WMO(世界気象機関)で定めた技術規則による。世界一斉の定時観測(00,06,12,21UTC)、日本時間では(9時、15時、21時、03時)の気象観測データが、気象電報(英数字で構成された暗号電報形式)として、国際気象専用回線を通じて各国に打電される。日本の気象庁ではその気象電報から「実況天気図を作成」。現在ではプロット(記入)および等圧線など天気図はほとんど自動的に描画される。

(2)   予想天気図

 力学的な法則に則ってスーパーコンピューターによって計算される「数値予報」から得られるデータから、自動的に「予想天気図」を作成。また、数値予報のデータから、具体的な天気(晴れ、曇り、雨雪など)や降水確率の予想値などが自動的に作成される。これを「天気ガイダンス」と呼ぶ。

 

4.天気図の描画

@     各地点の観測電報(いわゆるラジオ天気図の場合は、風向風速(風力)、天気、気圧、気温)を記入 A高・低気圧、台風などの位置、示度、移動速度を記入 B前線を記入 C等圧線を描画する(気圧の等しい線(例えば1000Pa)を探しながら、滑らかな連続線として)

 

5.天気図の閲覧

 気象庁のホームページ(http://www.jma.go.jp)や日本気象協会のホームページhttp://tenki.or.jpなどで可能。 

6.台風ものしり帖 

(1)   台風を動かすエンジンは、水蒸気が凝結する際に放出される熱(潜熱の解放)。

(2)   独特の気流系(循環)を持つ。北半球では反時計回り(左巻き)の大規模な渦。台

風の眼の中は、ほとんど弱風で、雲なし。眼の周りにはアイウオール(眼の壁雲)あるいはホットタワーと呼ばれる高さが10数kmの背の高い積乱雲が林立。アイウオールに向かって、レインバンドと呼ばれる螺旋状の降雨帯が数本反時計周りに連なっている。レインバンドの中には多数の積乱雲が含まれている。レインバンドの通過に伴い大雨となる。

(3)   台風の発達は、次のサイクルが続くことによる。

台風周辺の下層で湿った空気が螺旋状に中心に向かう⇒ 上昇せざるを得ない空気は断熱冷却され水蒸気が凝結⇒ 雲粒・雨粒を生成⇒ 同時に凝結熱で中心付近の気温が上昇⇒ 密度が減少⇒ 中心付近の気圧低下⇒ 中心付近と周辺の気圧差が増加⇒ 左回りの風が強まる⇒ 周辺から流入する湿潤気流の増大。水蒸気の補給が止まれば衰弱。

(4)       台風の進路予報:気象庁で、台風発生時に台風モデル(TYM)を運用:72時間予報、領域は台風を中心に約6500km四方、その計算結果などを総合判断して進路を発表(予報円方式)。台風の強度、規模の分類が変更され、従前の「弱い」、「小さい」の表現が消えた。近年、精度が非常に向上している。

(5)       台風と大雨:台風は、陸域に接近するにつれ地形などの影響を受け、降水域の広   がりや強度が変化する。風の吹き方は、自分の場所が、台風の中心と相対的にどのような位置関係(自分の東側を北上するか、西側を北上するかなど)に大きく依存する。雨の場合は、そのような明瞭な関係は見られない。自分の所が目から離れていることは殆ど意味がない。台風の上陸に関連して、中心が何処に上陸したかではなく、降水域や強風域がどのように変化しているかに注目すべき。台風がどう動いているかの一つの判断として、バイスーバロットの法則「風を背にして左手前方が台風(低気圧)の中心方向」は有用。台風周辺の風は同心円から数10度中心側に切れ込んで吹いていることの利用。

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